自社投稿サイトを通じて人気作品を書籍・出版化している、株式会社アルファポリス。今回、同社の代表取締役社長・梶本 雄介氏にインタビューしました。
「子どもの頃に描いた理想の世界を、今も追い求めている」と語った梶本氏。その原体験と、夢の輪郭がはっきりとしてくるまでのことを伺いました。
これは難しいですね。あまり言語化したことないのですが…やっぱり「なにか社会の役に立ちたい」という想いは大きいと思います。僕自身は小さい頃から中身はあんまり変わっていないんです。
引っ込み思案でしたが、もともと人を楽しませたり、みんなで協力してなにか面白いことをやったりすることが好きだったので、大人になってもそれを働くことで実現している感じだと思います。
マズローの欲求説ではありませんが、まずは食っていかなきゃいけない、働かなきゃいけない、お金もらわなきゃいけない、その上に当然僕は日本の教育や社会インフラから受けた恩恵があるので、それを社会に還元したいというのが土台にあります。
さらに、自分が好きだったり得意だったりすることでつくりたい世界を実現するというのが、僕にとっての“働く”かもしれませんね。
そうですね。
自分でも不思議なのですが、物心ついてからずっと覚えている印象的な夢(寝ている時に見る夢)があって。小学校2年生ぐらいの頃、みんなでただただ野原で遊んでいる夢を見て、ものすごく楽しかったんですよ。
本当になんの変哲もない夢なのに、ものすごい楽しくて…今でもはっきり覚えているのは、僕の生まれ持った本質的な価値観そのものだからなのかなと思います。
思えば、当時からずっと、その世界を実現しようとしているのかもしれません。もちろんそんなお花畑な世界はありえず、そこまでナイーブではないですが一種の象徴のようなもので。叶えるには時代や環境も影響するし、色々なスキルや努力や闘争やそれに運も必要で、苦しみや軋轢や失敗も多いですが…あの手この手しながら、右行ったり左行ったりしながら、子どもの頃に描いた理想の世界に近いものを追い求めているのでしょうね。
僕は新卒で博報堂という広告会社のイベント事業部に入ったのですが、そこで苦労しまして(笑)
同期のみんなや諸先輩方が力を発揮している一方で、僕はなかなか上手くいかない苦しい時期が続きました。1つ成長したと思っても、新しい仕事をするとそれが通用しなくて、3歩進んで4歩下がるみたいな日々でしたね。
クライアントの課題をヒアリングして、色々な手段を用いて解決に導く仕事なのですが、そもそもクライアント様から信頼を得るにも苦労したし…7年間勤めて、30歳の時に退職しました。
なんだかんだ結果は残したので挫折や失敗とは思っていませんが、1番苦しい時期だったのは間違いないですね。
1つは、学生の頃から独立したいと思っていたからです。
友人と「自分で会社やりたいね」と話していたのですが、僕のやりたい“エンターテインメント”の領域で新しいビジネスを立ち上げるのって、当時(1990年前半)は難しかったんですよね。
今で言うスカパーのような人工衛星を打ち上げるか、ケーブルテレビをぐわっっと引いて事業を始める…商社がうん百億、うん千億と出してやるような時代で、20代でお金のない僕らがそういうメディアビジネス、エンターテイメントビジネスで起業するっていうのは、非現実的だったんです。
でも、95~96年ぐらいにインターネットが登場したことで、状況がガラッと変わった。
IBMがたったの2万円ほどで「ホームページ・ビルダー」っていうのを出していて、そこで自分のホームページをつくれたんです。
こんなに安価で、自分で書いたものや撮った写真を、公開するだけで世界の裏側のブラジルの人も見られるようにできるなんてすごいと思いました。
そこで、インターネットを使ったエンタメ・メディアビジネスをやろうと決めました。
はい。
また、大雑把に言うと、クライアントに「御社はこうすると市場で勝てますよ」と提案やアドバイスをして、採用されることでお金を頂き──ここも重要で市場の実際の結果でなく、クライアントの決定権者に策が採用されることで売上となる──、それを影となり実行していく仕事だったのですが、やるほどに「自分で勝負したいな」という気持ちが強くなって。
これが世の中にウケるんじゃないか、市場で売れた売れないを自分で勝負していくほうが好きだし、何よりも向いているなと思ったんですよね。
学生時代にやりたかったことを追いかけて就職をして、「あれ、向いていないのかな」と思いながらもやってきて、7年かかって、自分が得意かつ好きなものが見つかったのだと思います。これも、独立するひとつのきっかけになりました。ただそれに気づけて確信を持てたのは目の前のきつい仕事に真正面から常にぶつかっていったからこそと思います。
やっぱりその職種が自分に向いているかどうかは重要ですが、それはやってみないとわからない部分もあるので、難しいですね。向いてないと思っても何年後かに壁を突破すれば実は非常に向いていたと思えることも往々にしてありますし。
ただ1つ言えるのは、他人の目は気にしない方がいいですね。
誰でも知っているような会社や大手上場企業に行くのは良いことだと思いますが、その理由が人目やプライドを気にしてというのはあまり良くないんじゃないかなと思います。
なんとなくみんなが知ってる会社だからと入社した人は僕らの時代にもいますが、そういう選び方をした人は、その後はあまりうまくいってないケースが多いなと。
反対に、自分の強い意志と感覚で、知名度は無くても最先端のITをやってる会社や、当時そこまで大きくなかったシステムコンサルタントの会社に行った人の方が成功していますね。会社自体も大きくなっていき、非常に活躍をされています。価値観にもよりますが、結果的に金銭的な面でも成功している人が多いです。
そうですね、僕自身の経験からも言えますし、同級生たちを見ていてもそうだなと。
ここに入れたら安泰と言われているような企業でも倒産したり、あるいは昨今は業績が良くてもリストラが続いたり、買収され先が見えない状況になったりと…世の中定かじゃありませんから。
“自分の”やりたいことや向いていることで選んだ方がいいと思います。特に今の時代はそれが比較的可能な売り手市場なので、より一層そう思いますね。
やってみないと本当のところはわかりませんが、就いた仕事にある程度真剣に向き合っていけば、自ずと変えようがない本質的な得意不得意、やりたいことは浮かび上がってくると思います。
梶本氏の“働く”という概念は、単なる生計手段ではなく、自己実現や社会貢献と結びついていることに感銘を受けました。
また“自分の価値観に基づいた選択が成功へつながる”という考え方は、時代を問わず重要だと感じます。
「世の中定かじゃない」という梶本氏の言葉通り、時代は絶えず変わり続けます。だからこそ、普遍的な法則を見つけ、貫くことが大事なのかもしれません。
編集:佐藤 由理
2000年設立。インターネット上で人気のある小説・漫画等を書籍化するビジネスモデルを創造し、2003年には出版した小説『Separation』がテレビドラマ化され、知名度が向上した。2014年10月に東京証券取引所マザーズ(現在は同グロース市場)に上場し、2023年には新刊書籍発行点数累計が5,000点を突破。近年では複数本のTVアニメを放送開始するなど、メディア事業の拡大にも注力している。