株式会社貴瞬の創業者・辻 瞬 氏にお話を聞きました。貴瞬は、創業9期目にして、年商200億円超・従業員数150人を誇る、急成長中の宝飾総合企業です。
辻氏が貴瞬を立ち上げたきっかけや、そこに込められた想い、起業後から現在までの過程で培った学び、そしてなにより大切だと語る真の「思いやり」など…数々のエピソードから、辻氏の仕事観を紐解きます。
GDPが4位まで落ちたり、税金や社会保険料が上がったりしている中で、特に就活生は意識が変わってきた、焦りが見えるなとすごく感じます。
今彼らが1番求めているのは、稼ぐ力。これを身につけられる会社を選びたいという潮流になってきています。
どれだけ自分が成長できるのか、また成長している会社なのかを非常に気になさる若者が増えている。最先端の情報をキャッチアップできている人ほどそうですね。
僕が就職活動をした時期はいわゆる氷河期だったので、入れるところ、その中でも給与で比較して決めました。
サザエさん症候群、もっと言えばちびまる子ちゃんとかその前のニュースあたりから「明日会社行きたくねぇな」と思っていました(笑)当時の上司は手を焼いただろうなと思います。
急成長企業の社長と聞くとどうしても、カリスマ性や行動力もずば抜けている、スーパーマンのようなイメージかもしれませんが、僕は本当に凡人。もしかすると凡人より劣っていたかもしれません。
でもだからこそ、部下と上司双方の気持ちがわかるんですよね。“親になって初めてわかる”ではありませんが、上司になって初めてわかる気持ちも多いので、そういう時期を経験していて良かったなと思います。
そうだったら嬉しいですが(笑)何にしても、相手を思いやることって1番重要だと思いますよ。
それは優しく寄り添うという意味ではなくて、相手の視点や価値観を知った上で振る舞うことです。正義の反対は悪ではなくもうひとつの正義だと心得て、相手の立場に立つ。そうすると、相手に対する理解が深まり、思いやることができます。
そうして初めて相手の心が動く。思いやるとは、人としてはもちろん、ビジネス観点においても大事なことなんです。
新卒で宝飾業界へ入り、幸せを感じながら働いていましたが、2011年の東日本大震災が転機になりました。
当時さまざまな産業が被災地を支援する中、僕にはできることがなかった。「宝石を通じて社会にできることはないのか」と考えたことが、今の都市鉱山に眠る中古宝石を扱うビジネスモデルの源泉となっています。
また、業界全体を通して待遇や働く環境面が非常に良くないことと、パブリックカンパニーが少なく、オーナー会社のパパママビジネス的な側面があることを知ったんです。
「この業界自体を変えたい」と思ったこともまた、起業につながっています。
そうですね。宝石屋なんて貧乏人ができる商売ではないのに、資本金50万、畳1畳から始めたので、最初の1年間は本当に苦しかったです。
役員報酬もゼロ、仕入れのために自分の給与も払えなかったくらい…今だから言えるような苦労話はたくさんあります。
その中でモチベーションというか、原動力になっていたのは“生きるため”でしょうか。
モチベーションで仕事ができるって、本当に裕福なことだと思います。僕はもう、下を向いて足元にある石をよけながら、とにかく目の前のことをクリアして進み続けてきました。
最近になってようやく後ろを振り返るゆとりができて、見てみたら「いつのまにか高くまで来たな」と、そんな感覚です。
“自身の価値提供”だと思っています。価値提供の目的は、自分が幸せになることです。
幸せになるためには報酬が要るし、報酬は世の中を幸せにしなくてはもらえないもの。だから働くこと、価値を提供する必要があるのです。
そして“報酬”とは、お金だけではありません。お客様からの感謝や、自身の成長、やりがいなども含まれます。
他者を幸せにすることで、そういった色々な形で自分のもとへ返って来る。ここに幸せを感じるというのが人間の本能だと思います。経営者としては今後、いかにして社員の皆さんへ“見えない報酬”を払えるかも、重視していきたいですね。
我々はなんのために存在していて、なぜ何億もの計上利益を目指しているのか。中古宝石を広めることで社会にどんな幸せをもたらせるのかを、社員や社会へ向けて細かく伝えています。
社員が誇れる仕事、会社であることが肝要です。
設立当初1億円程度だった売上が、今は200億円を超えました。なんの影響力も持てなかった我々が、今やっと社会へ影響をもたらせるくらいに成長してきているということです。
これを有効に活用して、世の中へより多くの幸せをつくっていきたいと思います。
「34歳で独立」「設立9期目で年商200億円の急成長企業」など、辻氏の紹介に用いられる言葉はどれも華々しく、順風満帆という印象さえも受けますが、それはまったくの誤り。
光が差し込み、屈折することで輝きを増す宝石と同様に、今日の辻氏や貴瞬を輝かせているのは多くの努力と“他人を思いやる”というシンプルな信念なのです。
ひとりでも多くの若者のもとへ、辻氏の経歴ではなく“ストーリー”が届くことを、切に願います。
編集:佐藤 由理
2014年創業の、宝飾品総合企業。色石の買取から鑑定、加工、販売までをワンストップで行える、独自のビジネスモデルが強み。
国内外における展示会への出展、拠点拡大など、さまざまな挑戦を繰り返しながら、一足飛びで成長。2022年にはさらなる成長を見据え、東京オフィスを移転。翌年、バンコクへ初出店すると共に売上207億円を突破した。