CEOの仕事観に迫るメディア「CEO VOiCE」。今回インタビューを受けてくださったのは、窪田製薬ホールディングス株式会社・窪田 良氏です。
研究者、眼科医、そして起業家と、異なるフィールドでキャリアを重ねてきた窪田氏に、アメリカ文化との関わりで得た視点や仕事観、逆境を乗り越えるメンタル術、さらには就職活動中の方に向けた会社選びのヒントまで、多岐にわたるお話をお聞きしました。
僕が大切にしているキャリアの考え方に「非連続的な成長を目指す」というものがあります。
医者や研究者としての道を極め専門性を高めていく選択肢もありますが、そのような人は世の中に多く存在しますよね。一方で、ある専門分野を持ちながら、起業など別の分野にも挑戦する人はそれほど多くありません。
だからこそ、そういったユニークな経験を積むことで、自分にしか提供できない価値を生み出せるのではという考えでこのキャリアを選んできました。
安定した道も魅力的ですが、僕は多少の失敗のリスクがあっても、他人がやったことがないような新しいことをやってみることにすごく魅力を感じる性格で。そうした思いで結果的に今のような人生を選んだということだと思います。
昔、信頼する先輩から「はしごをのぼるとき、今つかんでいる段から手を離さないと次の段に進めない」という言葉を頂いたんです。思い切って今あるものを手放し、新しい挑戦をしてみることで次のステージに進めるということですね。
新しい分野に挑むと全てが新鮮で、未知のことを学ぶ喜びがあるし、自分が急成長していると感じられます。
でも長く続けていると、成長スピードが落ち、知識や課題も既知のものが増え、ルーティン化していく感覚が出てきますよね。
その段階が来たら「次の新しい学びを始めるタイミングなのかな」と思って、積極的にキャリアチェンジをしてきました。
父の転勤で、小学生の頃アメリカに住んだことが大きいと思います。
当時(1970年代)日本にはとても親米的な感情が広がっていましてね…僕もアメリカには非常にポジティブなイメージを抱いていたのですが、実際にアメリカへ行ってみると、日本に対する反感が非常に強かったんです。
第二次世界大戦の記憶や、日本が自動車や電子部品産業などで急成長していたことから、日本に対する批判が高まっていました。
僕と家族が道を歩いていると、近くの家の植木に水をやっている人が「通るな!」と怒鳴って水をかけてくる。存在を否定されるという差別をはじめて経験しました。反日教育も行われていた時代で、衝撃を受けたのを覚えています。
そんな中で僕は「日本人として成果を残し、日本人がいてよかったと思ってもらえる存在になりたい」と思うようになりました。
日本人が世界から嫌われるのではなく、むしろ感謝されるような何かを成し遂げたい。そのためには、誰も手をつけていない新しい分野に挑み、それを世界に発信していきたいという気持ちが強く生まれたんです。
それが、研究や発明、知的財産を生み出すということに力を注ぐ原動力になっていったのだと思います。
また、僕にとって大きな転機となったアメリカでのエピソードが一つあって。
小学校5年生になったら1年間反日教育が行われると知り、非常に怖いと感じました。
僕は学校で唯一の日本人だったため、クラス全員が「日本がいかにひどい国か」という教育を受け、「こいつの国だ」と指をさされるのが嫌だったんです。
それで、人生で初めて全力の努力をしました。嫌いだった勉強を頑張って、5年生をスキップできたんです。
校長先生は全校生徒に「英語が全く分からない状態でアメリカに来たこの日本人の少年が、学校史上最高の成績で飛び級した。彼のように努力する人間になりなさい。」と話してくれて、僕は一躍ヒーローになりました。
それで「どれだけ困難な状況でも、努力すれば運命を変えることができるんだ」と思えたんですよね。
常に「明けない夜はない」「晴れない雨はない」といった心持ちでいます。
試練があるからこそ、ちょっといい風が吹いた時にはすごく感動できる。だから僕はマイナスのことが続いても、あればあるほど、次に晴れたときの感動が大きいだろうなと思っています。ものすごく楽観的というか、あまり悲観しないという性格ではあるかもしれませんね。
良い会社とは、個人の能力をしっかり引き出そうとする姿勢がある会社だと思います。誰しも得意不得意がありますから、それをしっかり理解し、人事や評価に反映している会社がいいと思いますよ。
自分がやりたい仕事を任せてもらえる環境であれば、自然とモチベーションも高まりますよね。逆に、やりたくない仕事や行きたくない場所に行かされるだけでは、仕事への意欲は湧きにくいものです。
昔の大企業だと、終身雇用を前提に「遠方への転勤であろうが嫌な仕事であろうが命令には従え」という仕組みが主流でしたが、やっぱりそれでは個人の幸せや充実感を最大限に引き出すことはできないと思うんです。
もちろん、全員が100%満足できる仕事はあり得ないのですが…でもやっぱり一人ひとりの“インターナルドライブ”が高まらなければ、良いパフォーマンスが出せないでしょう。
だからこそ、従業員のモチベーションや働きがい、やりがいを少しでも最大化しようという姿勢を持っている会社が良い会社だと思いますよ。そういうことを真剣に考えている会社を見極められるといいですね。
「はしごをのぼるとき、今つかんでいる段から手を離さないと次の段に進めない」という言葉がとても印象的でした。
段の幅は人によって違うでしょうが、それは問題ではありません。その幅が広くても狭くても、常に次へ手を伸ばし続けることが、自分を幸せにしてくれるのだろうと思いました。
本インタビューが、あなたが新たな挑戦を始めるきっかけや後押しになれば幸いです。
編集:佐藤 由理
眼疾患に悩む方の視力維持・回復に貢献する眼科医療ソリューション企業。近視の進行抑制、治療を目指す「クボタメガネ」をはじめ、多彩な医療機器や医薬品、医療技術の研究開発や実用化に取り組んでいる。
2002年に米国にてKubota Vision Inc.を設立。14年に外国企業として初めて東証マザーズへ上場、16年に現社名で再編し、本社を日本に移転、内国企業として東証マザーズへテクニカル上場。