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「福岡で最も成功したスタートアップ」の軌跡と、成長し続けるために必要なこと

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#20代での働き方#成長企業が持ち続ける課題

CEOの仕事観に迫るメディア「CEO VOiCE」。お話を伺ったのは「福岡で最も成功したスタートアップ」と呼ばれる株式会社ヌーラボの創業社長、橋本 正徳氏です。
「たまたま仕事に“ハマった”」という言葉の通り、日夜働き・IT業界を学び続けた橋本氏。その“アウトプット”こそが、今日のヌーラボだと語ります。今回は、ヌーラボ成功の陰にある、成長企業を率いるゆえの苦悩と社員への想いを聞きました。

株式会社ヌーラボ
橋本 正徳
橋本 正徳 氏のプロフィール画像

高校卒業後上京し、飲食業、劇団主催や、クラブミュージックのライブ演奏なども経験。1998年、父親の家業である建築業に携わる。
2001年プログラマーに転身、04年に福岡にて株式会社ヌーラボを設立し、代表取締役に就任。 現在「”このチームで一緒に仕事できてよかった”を世界中に生み出していく。」ために、Backlog、Cacoo、Nulab Passを開発・運営中。

橋本 正徳 氏のプロフィール画像

「知的好奇心を抑えられない」中毒のように学び、働いた20代

20代の仕事観について、思うことはありますか?

世代を問わず、働く意欲に満ちている人と安定志向の人に大きく分けることができる気がします。
その中でも、僕が共感するのは前者。仕事が大好きでめちゃくちゃ時間を使って「そのプロフェッショナルになりたい、一旗揚げたい」というマインドを持っている人です。そうした人のことは、19、20歳であろうと、“若者”という扱いではなく“同じ目をしているもの”として、同志のように思っています。そういうアニマルスピリットを持っている人と働きたいですね。

橋本さんはどのように働いていたのでしょうか。

僕はひどいですよ(笑)
家庭を顧みず、1日10時間ぐらい働いて、4~5時間趣味としてプログラミングや自己研鑽などをしていました。働いて帰宅して色々やって、4時くらいに寝て8時に起きて、また働くみたいな生活。
今はその時に学んだことを基礎としてアウトプットしながら所得を得ているようなものです。

よく「20代でついた差はなかなか取り戻せない」と聞きます。やはり20代の努力は重要なのですね。

そうですね。もちろん遅咲きもあり得ますが、遅くなるほど成功に対して運の要素が強くなっていくように思えます。

ただ僕は、学生さんたちに「頑張れ」と言おうとは思わないんですよ。
僕は仕事に没頭している間、家族にたくさん迷惑をかけました。仕事と引き換えに犠牲にするものもありますから、どう働くかは自分で選んだ方が良いと思います。

そこまでのモチベーションを、どう維持していますか?

モチベーションというか…知的好奇心を抑えられないんです。一種の中毒症状かもしれない。
学ぶことが面白くて仕方なくて、その間報酬系ホルモンのドーパミンがドバドバ出ているような心地よさがあるので、ずっとやってしまう。特に僕にとってプログラミングはその要素がかなり強かったので、やってしまったんですよね、止められても。

家庭も大事にしたいのに、それができないくらいに夢中になってしまって止まらない。だからモチベーションとか、頑張ったというような感覚はありません。

橋本 正徳 氏講演の様子

大事なのは、仕事を優劣ではなく“関係性”で見られるようにすること

仕事に熱中する中で、挫折や困難はありましたか?

まだ受託請負事業をしていた頃、社内に亀裂が入ってしまった時は「会社をやっていくってしんどいな」と思いました。

今でこそ“Backlog(バックログ)”や“Cacoo(カクー)”が伸びていますが、かつてはそうしたサービス開発・提供事業と同時に、受託請負もしていたんですね。
新サービスをつくって、ユーザーを獲得してと進めていく新規事業に対して、受託請負は、予算から発注していただいて開発・納品するという、一見地味な仕事。

実はそれぞれ泥臭いことをやっているのですが、後者からすると新規事業がキラキラして見えたんでしょうね。社員たちの仲が悪くなってしまって、その時は胃が痛かったです。
僕からしたらどちらの事業も必要だし、みんな幸せになってほしい。でも分かり合えないことがつらかった。

人間関係の隔たりとは、ある意味最も変えづらいものではないかと思います。どのように解決していったのでしょう。

仕事と仕事の関係性を紐解くようにしました。「これをやっているから、一方でこんなことができる」と、根気よく伝える。あの頃の僕らだと“受託請負で得たノウハウを、自社のサービス開発に活かしていくサイクルが重要である”といった具合です。
あとは、今で言う“ミッション・ビジョン・バリュー”のような、会社として

どこを目指していきたいかを明文化して、社員を説得しながらなんとかやってきました。
2013年3月末で受託請負事業を辞め、サービスを一本化したことで、だいぶ社内状況は落ち着いたかなと思います。

ただ完全に解決したわけではなく、今もなお、例えば「保守メンテナンスより新規開発が輝いて見える」という雰囲気になってもおかしくはない状況はあります。これはきっと、企業が成長フェーズである限り抱え続ける事情だと思います。

企業が成長するには新しいチャレンジをしなくてはいけないし、それを支えるのは既存事業です。成長を諦めて、安定したフェーズに入れば今の悩みはなくなるかもしれないけれど、本質的に社員を幸せにできるかといったらそうではないように思える。

だから大事なのは、社員が仕事を“優劣”ではなく“関係性”で見られるようにすることだと思います。目指すべきところと、それに対して各自が「自分は寄与・貢献しているんだ」と思えたら、多少上手く回っていくんじゃないかな。

サービス拡大と組織維持_どちらにも力を入れつつ、上手く手綱を引いていきたい

現在150名規模とのことですが、今後組織を拡大していく計画はありますか?

社員数を増やすより、サービスのユーザー数をどれだけ伸ばしていくかに軸を置いています。それに対して、きちんと業務を回せるだけの人数を採用していこうという感じです。
それもあまり急いでいなくて、ゆっくりでも組織を維持しながら着実に成長していきたいと思っています。

できればどんどんユーザーを増やしたい、でも組織は崩れないようにしたい_手綱の引き方がすごく難しいのですが、僕はそんなふうに会社を育てていきたいんです。

僕の理想は、みんなが陽気に、他がために働いている会社。ビールを飲みながらマイム・マイムを踊るくらいの陽気さで、社員たちと手をたずさえ働いていきたいと思います。

編集後記

光と影、太陽と月、成功と失敗など。とかく人は二項対立で考えがちですが、すべては相関しており、その関係性に目を向けられれば、自分がどちらにいたとしても悲観的になる必要はないのだと学べました。
心に突き刺さって抜けない「仕事を“優劣”ではなく“関係性”で見る」という言葉_これは今後のお守りになりそうです。

編集:佐藤 由理

「株式会社ヌーラボ」概要

2004年に設立された、チームのコラボレーションを促進するサービスの開発・提供を行う企業。
国内最大級のプロジェクト管理ツール「Backlog(バックログ)」、世界で300万人以上のユーザーを保有しているオンライン作図ツール「Cacoo(カクー)」など、多様なサービスを運営している。
福岡本社のほか東京、京都、ニューヨーク、アムステルダムに拠点を持ち、世界展開に向けて前進中。

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