CEOの仕事観に迫るメディア「CEO VOiCE」。今回は、株式会社リプロセルの代表取締役社長・横山 周史氏にインタビューしました。
工学博士号を持ちながら、研究職には就かず、ビジネスの道を選んだ横山氏。そのキャリアを追う中で“目の前の仕事との正しい向き合い方”が見えてきました。
私は博士号を持っているのですが…そうした人はたいてい研究職に就きますよね。
当時は、よりその傾向が強く、私の前にも“研究者として大学に残る”という選択肢があったのですが、私自身は1つのことを突き詰めて深掘りするよりも、マルチタスクで色々なことをするほうが好きだったので、就職を考えるようになりました。
ただ、アメリカへ留学していた都合で、就活のタイミングを逃してしまって(笑)
当時は通年採用している日本企業などほぼなく、どうしようかと調べていく中で、マッキンゼーが通年採用をしていたので、申し込んだんです。
理由はいくつかありますが、きっかけになったのは、マッキンゼーでは、その経験を活かして新しいキャリアにチャレンジする人が大半だったこと。
当時の日本には終身雇用が前提の企業も多かったのですが、マッキンゼーの人はどんどん新しいキャリアにチャレンジする人が多くて…であれば、次を探さないといけないなと思いますよね。でもあの頃は、今ほど転職が当たり前の時代ではなかったんですよ。コンサルという職種すら、あまり知られていない時代でしたし。
自分のバックグラウンドを振り返ったところ、専門分野である“化学”を活かせるところに就職したほうが良いだろうなと思い、スリーエムへ移ったという経緯です。
スリーエムは良い会社で、仕事も面白くて…エクセレントカンパニーの1つと言われているだけあって、研究者のイノベーションを大事にしてくれる、非常に恵まれた環境でした。
でも経験を積んでいくうちに「自分でやってみたい」「組織の一員としてよりは、自分で立ち上げたい」と思うようになって…そんな時に出会ったのがリプロセルです。
はい。ただ、登記だけしたような状態で、経営者がいなかったんです。ベンチャーキャピタルが経営者を探していて、エージェントを通じてたまたま私に声がかかり、参画させていただくことになりました。
中にはブラックな会社もあるのでそこを選ばないということは大前提として…上手くキャリアアップをしていこうと思うなら、労働市場の需要と供給のマッチングを考えるのも重要かなと思います。
需要は企業と個人双方にありますよね。企業が、研究者や経理、営業など「この職種を募集します」と言うのと同時に、個人にも「私はこの仕事をしたい」という気持ちがあります。ただ、これは必ずしも一致しないケースが多い。
募集枠が少なく応募者が多い職種で勝負しようとすると、当然ながら競争率が激しくなります。
だからこそ社会のニーズを把握して、多少自分の希望とは違っていても、より需要のある方へ進むのも選択肢の1つのような気がします。
最初はやりたいことと違うと思っても、打ち込む中で面白みに気づけることってあると思うんです。
そもそも社会に出ていないのに、学生時代にたまたま見つけた“やりたいこと”って、どこまで本当なのかなと。勉強しただけで、実社会で働いたわけではないなら、本当に興味のあることなのか自分自身でもわからない部分もあると思います。
私も大学ではずっと研究をしていましたが、最初はコンサルに行って、実際に面白かったですし。
面白みというのは、やればやるほど湧いてくるものですから、あまり就職活動の時点で「自分はこれがやりたい」というのを強く信じこみすぎないほうが良いかもしれません。
やっぱり1番しんどかったのは、リプロセルを経営していく中で、資金調達が上手くいかず会社の存続に関わるギリギリのところまでいった時期ですね。いわゆる“死の谷”です。
今は上場もしていますし、海外3拠点に子会社も持つくらいには大きくなりましたが、最初は私ひとりで始めましたから。
それまではマッキンゼーやスリーエムにいたので企業のブランドがありましたが、リプロセルなんて誰も知らないですし、当時は起業がもてはやされる時代でもなく、ベンチャー企業の位置づけは今よりずっと低かった…アポを1つ取るにも苦労しました。
ビジネスも上手くいかないし、信頼を得るのも難しくて、あと数カ月で潰れるという危機も経験しました。
乗り越えたので挫折ではありませんが、しんどかったですね。
常に「もっとやらなきゃ」と思っていることが大きいかもしれません。
今も色々新規ビジネスを展開し、海外へも進出して、再生医療という最先端の分野にも挑戦していることからもわかるように、ずっと「もっとやらないと」と思っているんですよね。それがモチベーションとなり、また新しいことが好きなので、興味が尽きない。
現状に満足していない、たぶん、ずっと満足しない_これが源泉にあるのかもしれません。
「組織の歯車になる」「いやいややらされる」「我慢しないといけない」など、会社に対してネガティブなイメージを持っている方が多いようですが、そんなことはありません。
過剰に心配せず、楽しむつもりで社会に出て行ってもらいたいなと思います。
私は3社経験しましたが、ずっと楽しかったですよ。
とにかく「たくさんのことを経験しよう」とか「自己実現の場にしよう」とポジティブなほうに考えて打ち込んで、人生を会社と一緒に楽しんでいっていただきたいですね。
「面白みというのは、やればやるほど湧いてくるもの」という言葉に、ワクワクしました。
自分の価値観だけで仕事を否定せず、しかし世の中を広く見て冷静に判断すること。そして「この先に面白みが見えてくるはず!」という希望も持ちながら、目の前の仕事と真摯に向き合っていきたいです。
編集:佐藤 由理
2003年、京都大学・東京大学発の再生医療ベンチャーとして設立。
世界初のiPS細胞の樹立実験にリプロセルの培養液が使用されたほか、ヒトiPS細胞由来心筋細胞の世界初の上市に成功するなど、iPS細胞の分野で最先端のビジネスを展開。
2013年にはJASDAQへ上場。現在、日本・アメリカ・イギリス・インドに拠点を有し、グローバルにビジネスを展開している。