CEOの仕事観に迫るメディア「CEO VOiCE」。今回お話を伺ったのは、株式会社シノプス・南谷 洋志氏です。
南谷氏とシノプスの歩みから、働く上で大切な価値観が見えてきました。軸をブラさず働いていくために必要なこと、迷った時の判断軸など、社会人の基礎として知っておきたいお話が満載です。
私は会社を大きな船だと見立て、社長は船長、社員は乗組員と考えています。
乗組員からしたら、どこへ向かっているかわからない泥船になんて乗っていられないですよね。同じ船に乗ってもらうためには、船長としてどんな想いのもとどこへ向かっているのかや、船の性能を明確にしておかなくてはといけません。
だから私は、しっかりと船のデザイン設計をして「ここへ向かうんだ」という羅針盤を持って、航海全体の絵を描けるような船長で在り続けたい。これが私にとっての働くということなのかなと思います。
企業にとっての羅針盤とは、企業理念です。当社では2008年頃に価値観を見直し「シノプスはこんな企業理念だよ、このもとにこういう経営方針があり、毎月・毎週の行動指針・計画があるんだよ」と明確にしました。乗組員の皆が、戦略・戦術・戦法をつなげて考えられるようにすることが重要だと思ったので。
正直に言いますと、全く考えていなかったんですよね。起業してからも同じで、そのせいで大きな失敗をいくつも重ねることになりました。
あまりに上手くいかないことに愕然として、ある時自分を省み「企業を経営するとは一体どういうことだろう?」と、1から考えたんです。
色々な書籍を読んだり先輩経営者に話を伺ったりして初めて「企業にとって1番大事な“企業理念”がなかったからだ」ということに気づきました。それがあってこその事業や、組織制度なのに…本当に浅はかでした。
企業理念って「こう生きていきたい」「こんなことを成し遂げたい」といった、自分の人生哲学を法人化させたものなんですよね。私は、哲学は持っているつもりでしたが、企業理念にリンクさせていませんでした。
改めて「自分はどうしていきたいのか」ということに立ち戻ったのは、ターニングポイントだったかなと思います。
サラリーマン時代、非常に私のことをかわいがってくださっていた取引先の社長と独立について話した際「独立したら1年分の注文書を出してあげるよ」といただいたんです。
また勤め先の社長に退職と起業したい旨をお伝えした所「500万円貸したる」と後押ししてくださり、自分の貯金300万円とあわせて資本金800万円で起業することができました。
ところが、当時始めた“ハードウエアの製作”という事業では製造に時間とお金がかかりました。しかも当時は一定期間後に現金化できる「手形商売」が主流。どんなに早くても、部品調達から現金が手に入るまでに半年~1年はかかってしまうんです。
すぐに資金が底をつくことはわかったので、銀行にお金を借りにいったり親戚に頭を下げて保証人になってもらったり…お金の苦労はいっぱいしました。
寝ても覚めても資金繰りに追われて、最終的には社員に辞めてもらうしかなくなりました。人材を手放さないとどうにもならなかったというのが、私の1番の失敗です。
はい。同じ失敗をくり返さないためにどうすればいいか、必死で考えてビジネスの構造そのものを変えることにしました。
ハードウエアからソフトウエアに転換し、手形取引をやめて現金取引のみにしたんです。そうすればお金の負担も縮小できると。
次に「どんなソフトウエアを世の中に提供するのか」と考えて浮かんだのが、現在の事業となっている“在庫管理”でした。大学で在庫管理をテーマに卒論を書いたので若干の知見がありましたし、様々な会社が在庫管理に苦戦していることを知っていました。
それまでも在庫管理の方法はたくさんありましたが、1週間~1カ月後にどれだけ売れるか需要予測をして在庫を管理するということは、どこもやっていなかった。そしてそこに悩んでいる会社は山ほどあったので「これが私たちのブルーオーシャンだ」と確信しました。
周囲からは「需要予測なんて占いみたいな事業で成功するわけがない」とさんざん言われましたが、だからこそチャンスがあると考えました。
占いではないにしろ、予測を100%当てられるのは神のみです。ただし需要予測というのは、統計学上は66%当たれば役に立つんですよ。あとは外れた時にどうするかの引き出しをたくさん用意しておけば良い。
私はとにかくその引き出しを増やして、お客様にも「外れた時は私が絶対にサポートするから一緒にやりましょう」と呼び掛けながら、泥臭く実績を積み重ねていきました。
理念に共感できる、想いが一致する会社を探してください。そしてもし悩んだら自分が「楽しいな、面白そうだな」という方向に行きましょう。そうすれば、そこで困難があったとしても、振り返った時に「楽しかった」と思えます。
給与や福利厚生も大切ですが、その仕事が嫌だった場合は嫌なことを続けながらお金をもらうわけです。お金は倍でも、嫌なことも倍だったら元も子もないんですよ。
ただ、逃げるのはダメです。自分で選んだ先で出会った困難や人とはきちんと向き合ってほしい。自分の至らなさや、自分と違う人間と勝負することで、人生の密度は濃くなっていくと思います。
「どこへ向かいたいのか明確にする」「誰もが挑戦しないところにこそ、成功の可能性がある」南谷氏のお話は、経営に限らず、すべての社会人に通ずることだと思いました。
行きたい方角が明確になれば、後はそこへ向かって努力を続けるだけ。もし今キャリアに迷っている人がいたら、まず自分と向き合い、なにを面白いと思うのか…どう生きたいのか…立ち返ってみてはいかがでしょうか。
編集:佐藤 由理
「世界中の無駄を10%削減する」というビジョンのもと、物流・小売業の「在庫の最適化」にこだわったサービスを提供。欠品による販売機会の損失と過剰な在庫を回避するための需要予測型自動発注サービス「sinops」の開発、仕入れ条件や賞味期限などの条件を考慮しキャッシュフローを最適化する「sinops-W」や、店舗間・拠点間で在庫を移送することで在庫の偏りを防ぐ「sinops-IM」などを展開している。