トヨクモ株式会社 CEO・山本 裕次氏にインタビューしました。
最初は「お金持ちにならないといけないと強く思っていた」と語った山本氏。その仕事観の変遷を追う中で“働く上で本当に肝要なこと”が見えてくると同時に、山本氏の“時代の捉え方”も学ぶことができました。
若い世代が“時代を切り拓く”ために必要な考え方と、勇気になる言葉が詰まった記事です。
人生のフェーズによって変化しながら、最終的に“自己実現の場”になっていくものだと思います。私自身も1つずつ目標を達成することで、次のこと、次のこと…と価値観が変わっていった感覚があります。
裕福な家庭ではなかったので、最初は「お金持ちにならないといけない」と強く思っていたので、お金持ちに1番会える仕事を探して、証券マンになりました。
でも、お金持ちにも限度がありますよね。1番のお金持ちを目指そうとすると、非常識な方向へ行ってしまうかもしれないので、そんなにたくさんのお金はいらないと思うようになりました。
だいたい1億円ぐらいを稼げるようになれば、その過程において“お金を稼ぐ仕組み”もわかるので、お金持ちになりたいという価値観は人生の中で小さくなっていったのです。
そうすると今度は「自分で会社をつくってみたいな」と思ったり、社長という立場が持つ力に対して興味を持ったりするようになりました。
それで、サイボウズの子会社をつくって社長に就任したのですが、社長であること自体は「働く価値そのものではない」とわかってきました。
社長になったからといって、やりたいことができるわけではないと気づいたのです。
はい。なぜなら、会社とは社長ひとりではなく、チームで動くものだからです。
「会社の現状を考えたら、これが現実的だ」という、チームとして“今における最善の選択”を考えるので、役職が持つ力に対する興味もなくなっていきました。
そうしてようやく、なにをするのが1番楽しいか考えるようになり、「新しい価値をつくってみたい」「新規事業をやってみたい」と考えるようになりました。
新規サービスをリリースして、世の中で使ってもらえることももちろん嬉しいのですが、やればやるほど「もっとこうしたい、ああしよう」と、新しくつくりたいもの、実現したいことが生まれてきます。
つまり、働くことが“自己実現の手段”になってゆくのです。
ですから、若い方には、早く目標を明確に決めて取り組んでほしいと思います。やり始めてしまえば、次々に違う景色が見えてきて、働くことが楽しくなっていくと思います。
もともと証券マンなので、経営者の方とお会いしたり、会社の価値について考えたりする機会が多くありました。その上で、私が考える“1番いい会社”はどんな会社だろうと想像しながら、トヨクモをそんな会社にしていくことが、やりたいことです。
私が考えるいい会社の条件は、まず“利益を上げる”ということ。会社自体の利益を上げて、社員の平均給料も世の中より高くしたいです。
そして、社員が自己実現できる機会を、会社が提供できること。本当に優秀な人たちが「トヨクモで○○をしたい」と思って入ってきてくれて、みんながトヨクモでやりたいことを持ちながら、一生懸命チャレンジをしてくれている状態をつくりたいです。
さらに、経営として全ての経営指標を伸ばしていき、会社として成長し続ける。これらをずっと続けられるような会社が、いい会社だと思います。
2~3年程度なら、ブームに乗れば実現できるのですが、事業も経営も“ブーム”ではなく、“文化”にしなくてはいけません。それには、10年、20年、30年と続けていくことが重要だと思います。
正直、当社がブームから文化にできるようなパワーのある会社であれば良いのですが、それは現状当社の身の丈に合っていない、現実的ではないと思います。
超大企業ならまだしも、ベンチャーや中小企業がなにもないところから文化をつくるのは難しいことです。
ただ、世の中のフェーズは変わっていきますから、その変化をつぶさに捉えて「これはブームから文化になりそうだ」と思ったらそのタイミングで事業として参入していくのが良いと思います。
例えばインターネットも、95~96年頃から各家庭の中で使える状態にはありましたが、普及率が高まっていったのは2000年以降です。“みんなが使い始めるタイミング”を見極めて参入するのが1番重要ではないかと思います。
はい。仮に早期参入したら、茨の道になってしまい、厳しい状況になると思います。
超大手企業や大学には、お金をもらって先端技術を研究開発している人がいますよね。何事も最初はそういう会社、大学が先行的な研究をするものであって、それが出てきたら我々ビジネス領域にいる人間は「もっと便利にしよう」「もっと使えるかたちにしよう」と、商業ビジネスにつなげていく、そういうものなのではないかと思います。
2011年に、東日本大震災による大きな津波がありましたよね。
震災以前は、コンピュータやデータは全て企業の中に置く_“オンプレミス”が日本のスタンダードでしたが、津波でデータが流されてしまったことにより「コンピュータやデータは、データセンターなど災害の影響を受けないところに置いた方がいいのではないか」という、ブームではありませんが、流れが生まれました。
当社はこの流れを、一過性のものではないと考え、ビジネス向けクラウドサービスに乗り出していったんです。
日本でビジネス向けクラウドサービスが伸びている会社は、2011年以降のクラウドの流れ、あるいは2020年のコロナのタイミングで生まれた流れに乗ってビジネスをできた会社だと、私の中では認識しています。
働くことが楽しくて、あまり苦しいと思った時期はありません。
目標がないまま働いていたら、それは苦しいと思いますよ。でも目指すところがあり、自分たちが考える最も良いと思えることを愚直に努力し続けていると、それは楽しいというか_成功も失敗も、財産として蓄積されていくのです。そして自ずと、花開く時が来ます。
小さなことでも、明確な目標を持って愚直にずっと続けていくと、来年の方がもっと生産性が上がり、再来年はもっと効率的に生産性が上がる。今年の努力は来年にも生かされます。
努力の積み重ねは、5~10年後、驚くほどの差となって現れます。
これからは、生成AIをネイティブに活用できるかできないかで、天と地の差が生まれると思います。私たちの世代がパソコンを使えるか使えないかよりもずっと大きな差になる。
その差分は、給料にも現れるのではないでしょうか。
どんな時代においても、その時にある武器を最大限活用することが重要です。そして今の武器は、その時代の人が最も上手に使いこなせるはずで、私たちよりも若い世代の人たちのほうが圧倒的に有利です。
新しく出てきた武器をしっかりネイティブに使いこなして、どんどんチャレンジしていってほしいなと思います。
今はすごくいい時代ですよ。
昔はチャレンジをするのにすごくお金が要りましたが、今はそれほどお金が無くても新しいことにチャレンジできる。何をやるにも、お金ではなくて“知恵次第”なのです。
やりたいことを何でも実現できる時代に入っているので、もっと貪欲に夢や目標を持ってくれたらな、そんな若者が増えたら日本はもっと良くなるのになと思います。
私自身は、そんな若者を応援したいと日々思っています。
飾らず、にこやかにお話される姿が素敵な、山本氏のインタビューでした。
私たちZ世代は、生まれた頃からずっと不景気なので、“いい時代”と言われても正直ピンときません。しかしだからといって、しぼんでいく経済の中で、私たち自身の存在感すらも小さくなっていってしまって良いのでしょうか。
生成AIという武器を取り、闘いに出ましょう。時代を切り拓いてきたのはいつだって、その時代の若者なのだから。
編集:佐藤 由理
2010年に、新規事業立ち上げ専門会社として、サイボウズスタートアップス(サイボウズ株式会社の100%子会社)を設立。その後、経営陣によるMBOにより独立した経営体制に移行。(2019年にトヨクモ株式会社へ社名変更)
「すべての人を非効率な仕事から解放する」をミッションに掲げ、クラウドサービスの開発・提供、また新サービスの開発・運用を行っている。2020年、東証マザーズへ上場。